外国人ファンが集う東京・谷中「澤の屋旅館」、館主が語るインバウンド受入れの本質!

外国人ファンが集う東京・谷中「澤の屋旅館」、館主が語るインバウンド受入れの本質と地域との連携

(トラベルボイス 10月19日)
https://www.travelvoice.jp/20161019-74644
「澤の屋旅館」館主・澤功氏のインバウンド受入れのヒントとなるメッセージが含まれた講演である。
英語力・外国人接客経験ゼロから、言葉と文化の壁を越え、外国人旅行者の圧倒的な支持を得ている理由をまとめられている。
宿泊客の約9割が欧米豪を中心とする外国人。1982年から昨年までに97か国地域の延17万7035人を受け入れてきた。リピーター率は約3割。
「トリップアドバイザー」の「エクセレンス認証」も2011年から5年連続で受賞し、東京都764軒の宿泊施設で1位となっている。
“単語英語”での対応も、「誰に対しても『よくいらっしゃいました』と思う心の方が大切だ」と話しておられる。
澤氏が励みにしている言葉「観光は平和へのパスポートだ」も重みを感じる。

【ポイント】
東京の下町・谷中で、外国人の個人旅行者に人気の宿として有名な「澤の屋旅館」。
全12室、うちバス・トイレ付き2室の家族経営の旅館で、宿泊料金は1泊朝食付き(夕食なし)の1室5400円~。
宿泊客の約9割が欧米豪を中心とする外国人客で、1982年から昨年までに97か国地域の延べ17万7035人を受け入れてきた。

そんな澤の屋旅館も、受入れ当初は外国人客に対するおもてなしは試行錯誤の連続だった。
“単語英語”対応も、英語が堪能でない接客のなか、単語で伝えた方が“Your English is clear!”と言われ、自信がついた。
英語ができないフランス人夫婦が1か月の滞在を終えて帰国した後、その子供の留学生に「とても喜んでいた」とお礼を言われ自信を深めた。
言葉は通じなくても歓迎が伝わった。差別の気持ちがあると体が逃げたり、目をそらしたり、内緒話をする。そういうのは雰囲気でわかる。
「どんな流暢な言葉よりも、誰に対しても『よくいらっしゃいました』と思う心の方が大切なのだ」と実感したという。
荷物を部屋に運ぼうとすると「No thank you」と断られたり、宿泊客に用意したプレゼントが持ち帰られずに捨てられるなど、日本流のサービスや良かれと思ったもてなしが受け入れられず、怒られることも。
理由を聞いてみると、荷物運びが断られたのは日本にチップがないことを知ってのこと。プレゼントについては、「(世界)195か国の人が喜ぶ共通のものはない。その代わり宿泊料金はできるだけ上げずに、頼まれたことを一生懸命対応しよう」と考えた。
和式トイレや大浴場の利用の仕方など、“訪日あるある”的な仰天のエピソードはもちろん澤の屋旅館も経験している。
「無理なのかな…」と思うこともあったが、自国での習慣通りにしていること。だから感情の折り合いをつければいいと思った。

澤の屋旅館に届いたサンキューレターを分析をしたところ、“Thank you for…”の後の言葉は“your service”ではなく、“hospitality”、“kindness”、“helpful”が続いていた。一生懸命おもてなしをすると、こういう風に見てくれる。
「ホストのホスピタリティが日本を特別の思い出の場所となるようにしてくれた」「日本を再び訪れたいと思うようにしてくれた」など、日本を理解する手助けに対する感謝が述べられていた。
地域との取り組みでこういう評価を受けたと見ている。
澤の屋旅館が夕食の提供をやめる決断をした時。外国人客は夕食を宿でとらない場合が多かったため、エリアマップを作成して、旅館ができないことは地域で楽しんでもらうことにした。
「澤の屋にないものが街にはある。地域があるから長期の旅行者の受入れにも自信がついた」と、外客受入れにとって地域の重要性を認識した。

地域である谷中の街の反応だが、外国人旅行者が街に出るようになってもあまり変わらなかった。
豆腐屋の商いの様子を見るのを阻むことはなく、家の前での盆栽の手入れを見られるのを嫌がることもなく、町内の祭りでも一緒に神輿を担ぐ。
来る人を拒まず、けれども特別扱いをしない。ありのままの姿で誰でも受け入れ、自然と交流が生まれた。
アンケートには、「谷中には日本人の生活が残っている。そこに日本の歴史・文化があるから良い」とのコメントが多かったという。

江戸時代の寺町の風情が残る谷中は、外国人が好む魅力を持つ優位性がある。
「訪れた焼き鳥屋は混んでいたが、カウンターを詰めて座らせてくれた。焼き鳥は高かったが美味しかったし、日本の人といろんな話ができた」
「外国人が見たい日本と、日本人が見せたい日本にはギャップがある」
「外国人旅行者は訪問先の生活の中に入りたいと思うのだから、ありのままの形で受けてあげればいい。澤の屋旅館のマニュアルは公開するけれど、同じものは喜ばれない。自信をもって違うものを売ってほしい」と訴える。
1軒でも多くの旅館が外国人客を受け入られるようにノウハウやデータを公開し、講演に呼ばれれば応じる。
「日本の文化・生活を見たいという外国人を受け入れ、相互理解が深まることで平和につながる」
「家族のための旅館経営だが、それが平和につながるというこの言葉を胸に、外国人を受け入れる」とインバウンド誘致の本質を語る。

民泊について「(ホストや管理者など)人に会わない、空室を埋めて利益を上げるだけの民泊はおかしい」と澤氏は考える。
以前、ドイツで民泊を利用したが、ホストが同居する家の部屋に宿泊し、翌日はホストと一緒に朝食をとった。
「地域の風俗を体験できる。こういうのが民泊ならいいな」と思ったという。

ビジネスで利益を上げるのと同時に、観光の持つ尊さを忘れてはならない。澤の屋旅館の軌跡は、その両輪の重要性を示している。