高野山観光にみる体験と対話 〜インバウンドの発展可能性〜

12月9日のシンポジウム『高野山観光にみる体験と対話 〜インバウンドの発展可能性〜』の

パネルディスカッションをご紹介します。長文ですが素晴らしい内容でした。 
(文責:星乃)
高野山の現状と将来を見据えての課題、宗教性と観光性について、奥の深い議論ができたシンポジウムだと思います。
高野山は日帰り客が増加しているが、宿泊客はずっと低下を続けているが、外国人観光客が年々増えており、2016年は7万6千人来られている。欧米系の方が多く(フランス、アメリカ、イギリス)40%となっている。
高野山という雰囲気が求められているようで、宿坊体験の満足度も高いようだ。
2016年の外国人比率は34%で、2019年には50%を超えると言われており、オーバーツーリズムも心配だという。
今月、中国で「空海」という映画が公開される。これを見た中国人が高野山に殺到する可能性があり、受け入れ態勢を真剣に考えなければならない。
韓国に来る外国人観光客の「動機」は、韓国仏教の伝統文化を体験するが55.8%と1位だという。
宗教の祈りの場としての高野山、宿坊体験、宗教者との対話など、原点を見直す必要がある。
【ポイント】
〈出席者〉
竹田茉耶 (一財)和歌山社会経済研究所
田村暢啓 高野山恵光院執事長。宿坊などに従事。英語ができるので仏教の通訳
       奥之院ナイトツアー(楽しみながら、密教の奥深い点を伝えたい)
岡本弥生 一社TERA-KOYA。高野山に生まれ育った。修行体験などの活動に従事。
       観光客が増えたが奥深さを感じてもらえないのが勿体無い。北京・上海で10年勤務
尾家建生 大阪府立大学観光産業戦略研究所
原  一樹 京都外国語大学外国語学部准教授 (観光という文脈から哲学を研究)
上村隆宏 大阪府立大学経済学研究科教授

1、 高野山のインバウンドの現状 (竹田)
・ 和歌山県の2016年度のインバウンド調査によると、1位:和歌山市内、2位:白浜、3位:高野山(昨年7万6千人)となっている。
  和歌山市は中国人が多く63%(宿泊場所がないため)、白浜は香港が多い。高野山、熊野古道は欧米系の方(フランス、アメリカ、イギリス)40%となっている。
・ 日帰り客が増加しているが、宿泊客は低下(1974年以降ずっと低下)している。
・ 外国人観光客の宿泊が増加しており、2016年度は34.1%を占めた。
・ 外国人観光客は20歳、30歳代の若い層が多く、ファミリーなど小グループが多い。
・ 訪日経験が初めての人がほとんど。1泊は70%、2泊以上も20%
 日本に着いてから高野山に行くことを決めた人も10%ほどいる。
・ 高野山に来た理由は、1位が高野山の歴史文化(35.7%)、2位が世界遺産、3位が友人の勧め。
・ 宿坊への宿泊が多数だが、ゲストハウスも料金が安いことを理由に増加している。
・ 宿泊しなかった人は、旅行プランが日帰りになっている団体客が多い。
・ 感動したことは、1位:町の雰囲気、2位:仏教・宿坊体験、3位:文化資源とあり、奥之院に感動したとの書き込みも多く、奥之院は特別な場所と感じられた。
・ 不満に感じたことは、宿坊(料金が高い、精進料理に何が入っているのかわからない、風呂が共用、入浴時間、シャワーが朝使えない)
・ 高野山に期待すること:1位が仏教・宿坊体験(仏教に学びたい)、3位が自然体験。
・ 高野山という空間(穏やか、豊かな自然、寺院・建造物)の雰囲気が求められている


・ 高野山を訪れる人は、宗教ツーリズム、スピリッチュアルツーリズム、聖地ツーリズムなどが考えられるが、分けて考えることができない。
・ 恵光院の宿坊には、アメリカ、イギリス、カナダが多い(欧米系が90%)
・ 宗教のアイディンティティを探している人も多い。聖地性と観光地性のバランスが重要。

尾家
・ ケーブルカーは、欧米人にとって特別な場所に行く感覚がある。
・ 京都が好きな人は高野山に行きなさい。
・ 宿坊は参詣の拠点として、参拝の作法を教え、参拝の場を提供する場になる。
・ 昔は各藩の武士の参拝客も多かった。2016年の宿泊客は28万人にまで減少。
・ 2016年の外国人比率は34%。2019年には50%を超える。オーバーツーリズムも心配。
・ 高野山の祈りの風景が変貌するという問題がある。

田村
・ 恵光院で朝の勤行や、奥之院ナイトツアーをやっている。
・ 高野山へのイメージは、ダマイラマのような老僧が静かにお経を読んでいると思って来る人が多いが、高野山では若い修行僧が走り回っている姿に驚く。
・ 赤い前掛けをしたお地蔵さんへの質問や、神道と仏教の違いへの質問が多い。
・ お大師さんの密教の思想を伝えたい。
・ 日本人は先祖供養、祈祷などが多い。若い人は観光感覚でやってくる。

竹田
・ 人口減少が止まらない。高野山はサービス業が主要産業であり、収益の柱。
・ 観光客の消費動向は、宿泊費、カフェ・ランチ、拝観料などが主要で、買い物などは少ない。
・ 何も買わないかというと買いたいものはある。お香たて、ご当地グルメ、Tシャツ、伝統工芸品などの要望はある。ローカルなもの、小さなものが求められる。
・ 国の目標の「2020年の訪日客4000万人」を高野山にあてはめると、現在の7万6千人が2020年に12万7千人になる。
・ 宿坊のキャパ的には受け入れ可能だが、外国人に対応できる施設や従業員が少ない。
・ 観光客を増やすためには交通などの対応が必要。
・ 宿坊でもドタキャンが問題になってきている。
・ 観光地化しすぎているとの声も増えている。
・ 宗教と観光のバランスが重要になる。

田村
・ 2016年は、海外の人が毎日260人来た数字になる。
・ 観光と宗教との間の問題に葛藤はある。
・ 若い修行僧は、観光地として成り立っている面も理解している。
・ 宿坊で、旅館ホテルのようなホスピタリティを提供するのは無理がある。
・ 昔の信者さんの受け入れからインバウンドへの転換に悩んでいる。

岡本
・ 中国人観光客に悪いイメージを持つ人が多い
・ エピソードとして、宿坊でラーメンを作り始めた話がある。相談を受け、お腹が空いているのだから、宿坊で食べ物を出してあげるようアドバイスした。しかし文化財の火災が心配だと説明すると納得され、帰る時に多額の寄付をしたという話もある。
・ 日本ではうどんは音を立ててすするが、中国では音は立てない。文化の違い。
・ 「謝」は中国ではありがとうの意味。日本ではマイナスの意味を持つ。
・ 2015年の音声ガイドの貸し出しは、中国語圏が一番多かった。
・ 中国で12月に「空海」という映画が公開される。(日本は2月公開) これを見た中国人が高野山に殺到する可能性がある。その時の対応次第で「これが空海の聖地」と、悪いイメージが拡散される危険性もある。高野山が尊敬される環境だと、高野山に学ぼうとの流れになる。
・ 拒む拒まないに関わらず、来るものは来る!

尾家 
・ 韓国に来る外国人観光客の「動機」は、韓国仏教の伝統文化を体験するが55.8%と1位。
・ 2002年のワールドサッカー時に、全国の仏教寺院が「テンプルスティ」に対応。
・ 韓国寺院では「バルコンヤン」という精進料理を出す。(昆布やキノコなどの天然の旨みを効かせ、伝統の方法で仕込んだ醤油や味噌、コチュジャンを使用した料理は味付けのバリエーションが豊富。肉や海鮮は一切使用していない) 食事の作法も日本と異なる。
・ 大きなお椀に熱湯と茶葉を入れ、頭からタオルで覆いながら湯気を吸い込み「本当の自分を見つけなさい」という精神修養も体験した。
・ 韓国では、仏教は宗教ではない、科学だという。
・ 韓国では「僧侶との対話」が求められており、高野山でも求められるのではないか。

竹田
・ 欧米系は朝食を好まない方も多いので、フルーツと軽食を提供するほうがよい。このような情報の発信することも大切。
・ 高野山の魅力とは、自分自身の日常にない何かを感じること。「高野山らしさ」を求めて訪れるが、「高野山らしさ」が失われたら魅力が減退する。責任ある観光の姿勢が問われる。

田村
・ 外国人観光客の受け入れに伴って、毎日問題は発生している。
・ 文化の違いや背景を学びながら取り組むことが重要。
・ 密教の思想は「全てを受け入れる」にあるので、最終的には理解を得られると考える。


・ 勤行も寺院によってそれぞれが違う。
・ 精進料理についても説明が必要。

総括: 「体験」の多様性と、「対話」の深化が重要。


一社TERA-KOYAの岡本弥生様の発表資料
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