目立ってきた「観光公害」 対策は地方分散とリピーター!

(ニッポンの宿題)目立つ「観光公害」 高山傑さん、井門隆夫さん
(朝日新聞デジタル 2018年4月21日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13460702.html?_requesturl=articles%2FDA3S13460702.html&rm=150


「観光公害」という言葉を目にすることが増えて来た。
人口減少が起こり、経済に明るい展望が見えない中で、「観光」は日本の経済の今後にとって有望な産業です。
観光公害が目立ち始めている今、真剣に対策を考える必要がある段階といえる。
観光客を1カ所に集中させず「分散」させること。そのためにはリピータを増やす。そのリピータを増やすためには、魅力を高めるしかないと論じられている。


【ポイント】
■高山傑さん(スピリット・オブ・ジャパン・トラベル代表取締役)
京都の町には世界中の人たちが魅力を感じ訪れてくれます。でも、最近は大挙して観光客が押し寄せることによる弊害、観光公害が目立っている。

観光路線沿いに住む住民はバスに乗れません。
行きつけだったレストランがSNSで取り上げられ、突然、人が殺到します。
街中にある民泊用の古民家に観光客が出入りし、騒いだり、ゴミを乱雑に出したりもする。
食堂に入ってきた観光客が食事中の客の皿に手を入れ、味見をして「同じものを」と注文したり、スナックを食べ歩きしながら、同じ手で舞妓さんの着物に触ったりする。
清水寺や金閣寺へ、わびさびの静寂さや雅な雰囲気を期待して訪れても、朝一番で行かないと、混雑ばかりで全く味わいがありません。
京都らしい雰囲気が消えていったら、日本の文化を本当に愛する外国人が離れていく危険もある。
老舗料亭の中には、HPの多言語表示をやめたり、電話で相手を探りながら予約客を決めたりする店が出ている。

深刻なのは、民泊需要で地価が上がっていること。
単なる空き地に1億円以上の売値がつくこともあり、不動産取引が活発になっている。
土地バブル現象は、京都に暮らし、京都という観光地の資産を守ってきたコミュニティーを変化させ、空洞化させてしまいます。

大阪や神戸から観光バスで淡路島へ行き、「花畑の中でウォーキングをする」ツアーがあります。出発時に昼の弁当が積まれており、現地でウォーキングするのでお金は必要ありません。お土産しか買わない素通り客です。
こうした客のために、観光インフラ整備として「公衆トイレの増設」をするのが妥当なのか。

観光立国をめざしているのに、旅行人数や泊数、ツアーごとにどこでいくらお金を使うかなどの詳細なデータをモニタリングしていない。観光客の実態がいま一つわからないのが問題です。

■井門隆夫さん(高崎経済大学准教授)
観光は今後の日本の経済成長にとって有望な産業です。
観光公害よりはるかに恐ろしいのは、訪日客数が止まってしまうことです。
日本人の国内宿泊旅行の割合は、給与総額が頭打ちであることも影響して、2016年までの10年間、落ちている。
だから訪日客の増加は、歓迎すべきことです。

観光公害が目立ち始めているのは事実。「このままだと、いずれ深刻な事態になるよ」という警告の段階といえる。
弊害が目立ち始めると、住民も観光客も快適ではなくなります。
解決に向け、鉄道やバスの運転本数を増やしたり、宿泊施設を整備したりなど、インフラ対策として手がけられることはあります。

お金を落とさない日帰り客、素通り客への対策として、イタリアのベネチアでは町の入場料を取る案もかつて出ました。壁で囲われるとテーマパークになりかねない、などの理由で実現しませんでした。
一気にやってくる素通り客からは、お金を取る有効な対策はないのです。

中長期的にもっとも効果的なのは、観光客を1カ所に集中させず、「分散」させることです。
地域、時期、曜日などで分散させるのですが、簡単ではありません。
ガウディの建築を見たくてスペインのバルセロナへ初めて旅行する人には、それは絶対的で唯一の観光コンテンツです。ほかの地域を薦めたところで、意味がありません。
でも、4回も5回もガウディを見た人に「今度はこちらへ」と言えば、分散へと促せる可能性もあります。
その国に旅行するリピーターをいかに増やせるか、という問題に帰着します。

観光庁も「分散」「リピーター」を掲げて、満足度を上げるための事業を支援しています。
宿泊施設の表示の多言語化や公衆無線LAN設置、トイレの洋式化などに、3分の1の補助金を出す事業がある。
日本では宿泊業の94%が資本金5千万円未満の小規模事業者で、61%が1千万円未満です。
満足度が低いとされる小規模事業者のインフラ整備で、宿の快適度を上げるねらいですが、残りの自費負担分を出せない事業者が多い現実がある。
小さな飲食店も同じです。クレジットカードは使えなかったり、喫煙可だったり、整備する資金がない。

観光は「人数×泊数×回数」だと思います。このうち旅先が分散すれば「泊数」は増え、リピーターがいれば「回数」が増える。泊数と回数を増やして延べ客数を増やしていく施策が大切です。