文化財保護 二条城の付加価値向上、集客増大からみる収益確保の方策!

二条城が「半世紀ぶりの集客」に成功したワケ 〜これは「生産性向上」のモデルケースだ〜 (デービッド・アトキンソン)

(東洋経済オンライン 2018年06月12日)
https://toyokeizai.net/articles/-/224317?utm_source=Irodori+Mail+Magazine&utm_campaign=d01a780c89-201806&utm_medium=email&utm_term=0_7434297140-d01a780c89-143160005&ct=t(201806_20180620)
デービッド・アトキンソン氏の、「文化財保護のためには大きなお金がいる」「そのお金を稼ぐために魅力を高め稼ぐしかない」との論理は明快だ。
二条城を所有・管理する京都市の改革を具体的に説明されている。
お金を支払う人、特に外国人の立場に立った改革には説得力がある。
多くの自治体が観光に力を入れているが、観光地のPRやブランディング、ホームページなどを通じた発信ばかりで、付加価値を高め収益源とする視点に欠けるという。
日本の観光も次のフェーズに入ったと思われるので、しっかりと戦略を考えて欲しい。
【ポイント】
デービッド・アトキンソン氏の書籍『国宝消滅――イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』の中で、日本の文化財が抱える問題について鋭く迫っている。
京都にある二条城は、世界遺産にも登録されている城で、京都市が所有、管理している。
昨年2017年度の入城者数が243万9079人と、過去最多を記録。前年度比53万4877人、28.1%増です。
2017年の訪日外国人客数は前年比19.3%増ですから、二条城の入城者数はインバウンドの伸び以上だった。
二条城の入城者は150万人前後で推移していたのですが、昨年度ついに過去最高をもたらしました。

入城者数の増加と呼応するように、 国庫補助や市債、基金繰入などの収入も飛躍的に伸びている。
2012年度の二条城の収入は9億200万円にとどまっていましたが、2014年度に10億円を突破、2017年度は14億4000万円に達すると見込まれます。この数字は、前年度比2億7000円、23.6%の増加です。
来年2019年4月1日から、現在600円の入城料が、二の丸御殿を別料金(400円)とし、実質1000円になります。

二条城の入城者数および収入の大幅な増加は、自然に起きたことではありません。
国の観光戦略の一環です。国内でも秀逸な文化財を観光施設として再整備するテストケースとして、京都市長の旗振りで実施されたものです。
「改革を実行するために有能なリーダーが必要」ということで、二条城事務所長に文化担当局長の北村信幸氏が就任。
北村氏は幅広い分野から有識者を招いて「二条城の価値を活かし未来を創造する会」を開催。
ビジネスパーソンを含めて、さまざまな観点から、特に活用と保存の両立のあり方について徹底的に議論されました。激論の後、2016年9月16日に最終報告書がまとめあげられました。

二条城の魅力アップのために、まず取り組まれたのが、御殿などの整備でした。
2016年に、二の丸御殿内85カ所、屋外307カ所に新しい多言語による解説案内板が設置されました。

現在、二条城の入城者の6割以上が外国人です。彼らは日本人に比べて、日本の歴史や文化に関して深い知識を持っているわけではありません。このことを鑑みると、外国語パンフレットの拡充は急務でした。
取り組まれたのが、言語別パンフレットの作成です。これまで、外国人向けのパンフレットは一種類で、3つの言語で説明がされていたため、一つの言語で説明されている内容が少なくなってしまっていました。これを改めたのです。
歴史的背景の説明も充実されました。
たとえば、あまり日本の歴史に詳しくない外国人観光客向けに、そもそも「将軍」とは何者なのかといった初歩的な説明を加えました。大政奉還など、二条城とはどういう歴史をたどってきたお城なのか理解できるようにしたのです。
単に日本語の解説を翻訳しただけでは、外国人には伝わりません。和文の参考資料をベースに、外国人が一から書き起こしたのです(これを「クリエーティブ・ライティング」と言います)。
2016年12月に作られた日本語版を皮切りに、6種類の外国語版(英、繁、簡、ハングル、仏、西)が2017年4月までに作られ、今年7月にはドイツ語も登場するので、外国語版だけで7種類になります。
また、2017年11月から日本語と英語による公式ガイドツアーを開始しました。いずれも90分で、二条城の魅力をより深く理解できます。お値段は、日本語のコースが1000円、英語は2000円です。
二条城内はほとんど砂利敷きですし、二の丸御殿にベビーカーやキャリーバッグが持ち込めません。
従来のコインロッカーに加えて、2018年2月から入り口付近に手荷物預かり所を設置しました。一個300円です。
車いすにもやさしく歩きやすくするため、砂利道の改善も計画されています。
通常は開城が8:45で17:00閉城なのですが、昨年は7~8月の2カ月は開城を7時に繰り上げ。
今年は期間を延長して7月から9月まで開城時間を8時とし、閉城時間を7~8月は19:00に延長します。

「非公開の香雲亭で、綺麗な日本庭園を見ながら食べる朝ごはん」の朝食サービスも始めました。
去年は7月と8月のみの期間限定でした。京都の夏の昼間は大変暑いので、比較的涼しい朝を生かした企画です。
昨年は2カ月で2244食も売り上げ、予約が取れないほど大変な人気を博しました。
今年は7月から9月までに延長することが決まっています。
今年2月1日から3月2日までは、お昼に「早春の二の丸御膳」の提供も実施しました。
MICEのユニークベニューに開放したり、ウェディングやレセプションやイベント(たとえば、サントリーとのコラボで京の伝統と食のイベント、松たか子さん出演の舞台公演、小澤征爾音楽塾など)に使ってもらう計画も実現してきました。
文化財は、日本人の尊い財産であり、次世代につなげていくべきものです。これら文化財の維持管理にはおカネが大変かかります。日本は社会保障の負担がどんどん増え、文化財の維持管理に充てられる予算も潤沢ではない。
維持管理の費用を、文化財自身が稼ぎ出さなくてはいけない時代を迎えてしるのです。
「文化財とはそういう下世話なものではない」などの反対意見の人が必ず出てきます。実際、委員会でもそういう意見がありましたが、そういう人は、日本が直面している「予算の逼迫」という厳しい現実が理解できていない。
文化財の魅力を高めて、増えた収入をその文化財の保存のために利用することが大切です。
二条城が実施した改革は画期的です。
多くの観光地はPRやブランディング、ホームページなどを通じた発信は熱心ですが、それだけしかしていないところも少なくありません。特に、整備を怠っていることが多いのです。
二条城はブランディングも、PRも強化したわけではない。二条城自体を観光客にとってより魅力的にするよう整備し、磨き上げた改善です。今回は二条城という価値に付加価値をさらに高めたものです。

政府は2020年に訪日外国人数を4000万人、同消費額を8兆円にするという目標を掲げています。
この数字の前提には、一人当たりの消費額を現在の16万円から20万円に引き上げることが含まれています。
二条城のように付加価値を上げる取り組みは、日本全体が取り組むべきテーマです。

「観光公害」という言葉を耳にすることがあります。
交通渋滞やごみ問題もありますが、観光公害の本質は、観光客から十分な対価がもらえてないことです。
対価向上を実現するには、5つ星ホテルなどの建設や、観光地の付加価値・魅力度アップの整備が不可欠です。
最後に、今後の日本の観光について考えるにあたって、見逃せないニュースがあります。
今国会で文化財保護法の改正が成立しました。
この改正により、文化財行政を教育委員会から首長部局に移動させる選択肢が生まれました。
「文化は教育」「修学旅行の延長」という古い考え方から、「文化を守るために活用する時代」「より自立し持続性のあるものに切り替えるべき」という流れに対応できる環境がようやく整ったのです。

二条城が、先駆者として文化財の正しいあり方の道を示した改革に、感動と感謝の念を禁じえません。