『 鉄道と観光 〜インバウンド推進の真の意義〜 』(講演概要)

『 鉄道と観光 〜インバウンド推進の真の意義〜 』(講演概要)

(平成30年12月12日)
第29回『観光のひろば』は40名の方にお集まりいただきました。

 


参加された方にとっては、とても満足度が高く、意義のある講演だったと絶賛いただきました。

もっと多くの方にお聞きいただきたかった講演でした!
 

今回の『観光のひろば』は、スルッとKANSAIを設立し、鉄道業界にイノベーションを起こされた横江友則様にご登場いただきました。大阪メトロを今年ご卒業され、一般社団法人グローカル推進機構を設立し、第二の人生を歩まれています。その横江様に『鉄道と観光』、そして、これからの人生の生き方をテーマに語っていただきました。
 
いきなり出てきた言葉は「逆風の時には空を飛べ!」でした。

「スルッとKANSAI」の設立からICカード「PiTaPa」の誕生まで、逆風とイノベーションの連続であったことが思い起こされる講演でした。
 
大手民鉄16社の輸送人員は、1991年101億人6千万人をピークに減少していました。
そのような時の1995年に阪神淡路大震災が起こり、鉄道も寸断されました。この時、阪急は神戸から御影まで、阪神は御影から梅田まで輸送することが可能でした。この時、乗り換えをスムーズにするために阪急御影駅の改札機を改造し、阪神の定期を乗れるようにしたことから「阪急・阪神共通定期」を思いつかれたといいます。
これは顧客視点では1枚の定期券で乗れる電車の本数が倍増することにつながり、鉄道会社としては少しの投資で複々線化が実現できることにつながります。キャッチコピー「行きは阪急・帰りは阪神」だったそうです。
 
1996年、「スルッとKANSAI」は大阪市交通局、阪急、阪神、能勢電鉄、北大阪急行の5社局からスタートしました。(2018年4月64社局)
ここに壁が登場します。鉄道営業法(1900年制定)に「運賃ノ支払ヒ乗車券ヲ受クルニ非サレハ乗車スルコトヲ得ス」とあり、磁気カードの残額が初乗り運賃を下回れば乗車できないとの解釈が立ちはだかりました。関西のお客様は「残額があるのに乗車できない」ことに苦情を言います。また相互乗り入れしている鉄道会社は初乗り運賃も異なります。鉄道営業法をよく読むと「別段ノ定アル場合…」とあり、運輸省と交渉を重ね、鉄道会社の約款に「残額がある場合は乗車できる」と書き込むことにより許可が得られた。顧客視点に立った価値創造だったといいます。このことがその後のPiTaPaを実現するための試金石になったそうです(10分後の後払いと一月後の後払いは定性的に同じ)。
 
鉄道・バスは、お客様にとっては「手段」であり、目的は通勤通学、観光などにあるとして、乗り放題の「3dayチケット」が誕生します。2001年には外国人向け乗り放題チケット「KANSAI THRU PASS」として販売し、このことにより海外販売が伸びるという結果を導きます。この発想が、電車・バス1日乗り放題で観光スポット35箇所無料の「大阪周遊パス」の開発につながります。2017年には年間120万枚が利用されたといます。
 
これまで鉄道会社の自社沿線にとどまっていた需要が、連携することにより、マーケットが全国に、世界に拡大したということにつながりました。鉄道事業は基本的に変動費は小さく殆んどが固定費であるので、収入の増加がほぼ利益の増加につながります。関西の鉄道はインバインド効果もあって、2002年を底に上昇に転じ増収増益を更新しています。
 
鉄道会社では、上司の承諾がなかなか得られず意思決定が遅いのですが、スルッとKANSAI協議会では、各社経営陣で構成する理事会でミッションを統一し、目的別ワーキンググループの設置の承認を受け、各社から参加したスタッフの中で検討が進められて、企業の中堅・若手に実質的に意思決定を委譲する仕組みが作られました。異なる社風の集合体だからこそ柔軟な発想を持つことができたともいいます。
「“Win-Lose”→“Win-Win”」「競争から共創へのパラダイムシフト」と横江様は語られました。
 
2000年にJR東がICカード乗車券の開発に着手します。当時、ICカード化することを目的とした検討会もありましたが、ICカードは手段であり目的ではないとして、磁気カードで実現できなかった価値の向上のためのICカード化に向けた検討が始まります。
お客様のご要望は、①他の交通機関でも使いたい、②コンビニなど店舗でも使いたい、③精算機を使いたくない、④回数券の種類が多すぎる、⑤プレミアをつけてほしいなどがあり、これらをローコストで実現させる方法として、銀行口座に紐付いた「ポストペイ」に行き着きます。
そして、2004年8月ICカード「PiTaPa」がスタートしました。
 
さらに、お買い物にポイントを付与することにより、運賃負担が下がる「ショップdeポイント」サービスもスタートします。百貨店のエレベータが利用代に含まれる(タダ)ように、鉄道・バスの料金も、飲食・物販の利用代に含めることにより交通費を実質的にタダにして鉄道を「都市のエレベータ」にしていくという発想です。
また、お子様の改札機通過や登下校の情報を保護者にメール配信する「あんしんグーパス」というサービスも付加され、今もお客様を増やし続けています。
 
2013年、ICカードの全国相互利用が始まりました。全国の鉄道・バスがICカードで乗車できる時代を迎えました。今ではほとんどの人が交通系ICカードを持つといいます。さらなる利便性向上を期待したいものです。
 
今、インバウンドが増えており日本の公共交通も利用されています。しかし電車・バスの混雑や、マナー問題、オーバーツーリズムの問題も顕在化してきています。
インバウンドの方々が訪日されるのは、日本という国土の魅力です。しかし国土の魅力だけでなく、日本は平和だから、安心だからと73年たまたま平和な世の中が続いていますが、この事実を持って今後の平和が担保されるものではありません。一人ひとりのインバウンドの方々に対する意識が後世に平和を紡ぐことになる。インバウンドに携わる人だけではなく、全ての国民がこの趣旨を共有して海外から期待人を迎え入れて、“平和の使者”としてお帰りいただくことが、インバウンド推進の真の意義であると熱く語られました。
 
この観点で「世界の人々と日本の地域の人々が相互に交流することによって、日本に対する真の理解を推進し、地域と地域交通の発展と、世界平和に貢献する」というミッションを持った「一般社団法人グローカル交流推進機構」を2018年に設立されました。
横江様は専務理事として、ここで第二の人生を歩まれます。ご活躍を応援してまいりたいと思います。