中国人団体海外ツアーのADS認定の影響も 個人客増で政治目的の効果は減少か!

威力陰る中国人団体の海外ツアー 個人客増も政治目的の効果は上がらず

(産経Biz   2019.4.21)
中国人海外旅行客に占める個人旅行者の割合は、18年前半に50%に達している。
中国人団体ツアーは、中国政府が認定(ADS認定)した国のツアーを、中国の旅行代理店が扱うことになるため、中国政府が制限しやすかったが、個人旅行は制限できないという。
中国共産党系新聞「環球時報」で、このような内容が報じられることに時代の変化を感じる。
【ポイント】
今年の中国では「中国・ニュージーランド(NZ)観光年」と銘打たれたが、中国共産党系新聞、環球時報は”中国人観光客がNZへの旅行計画を考え直している”と報じた。
華為技術(ファーウェイ)が供給する5G移動通信システムをNZの電話会社が使うことを禁止するとの方針をNZ側が打ち出したためだという。
「相手国がどれほど温かく観光客を歓迎するかが中国国民の旅行先選択に影響を与える可能性がある」と中国国有のツアー旅行会社は説明するが、こけ脅しではない。
中国人観光客の急減でパラオや韓国などは実際に大きな打撃を受けており、政治の主張のためには国民の旅行先を別の国に誘導するのもいとわないのが中国政府だ。
中国政府が1980年代に緩和し始めた渡航制限も、当初、渡航可能エリアは香港や東南アジアなどに限られており、中国側が関係回復を目指す政治目的で選ばれた地域であるのは明らかだった。
90年代半ばの所得増加に伴い海外旅行需要が拡大し、一段の規制緩和を迫られた政府は渡航先を個別に認可する「ADS」と呼ばれる制度を導入した。中国の旅行代理店がADS認定を受けた国向けの団体ツアーを扱うことを許可するとともに、認定国による中国での観光マーケティング活動を認めるというものだった。
ADSの効果は驚くほどで、2018年には中国本土に住む1億5000万人近くが越境旅行を楽しみ、世界一のアウトバウンド大国になった。
中国人観光客を受け入れる国の恩恵も大きく、ADS認定後の3年間にその国を訪れる中国人が50%増えた。
NZは国内総生産(GDP)の6%を旅行・観光業から直接得ており、海外の観光客数はオーストラリアに次いで2位が中国だ。
17年、中国は韓国への団体ツアーの認可を休止。韓国政府が米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を決めた後のことだ。同年だけで韓国の観光業界は70億ドル(約7800億円)近い打撃を被ったと試算する。
昨年は、台湾との外交関係を維持すると決めた太平洋の島国パラオへの団体ツアーを禁止し、観光業で成り立つパラオ経済は壊滅的打撃を受けた。パラオの観光客の約45%が中国人だった。

そうした中で、中国人が一段と豊かになり自信を持つにつれ、この経済兵器の威力は確実に薄れそうだ。
政府の制限対象でない個人旅行が選好されるようになってきている。
13年時点で、中国人海外旅行客に占める個人旅行者は37%だったが、18年前半にはその割合が50%に達した。中国最大の旅行代理店、携程旅行網(Cトリップ)経由の予約によると、豪州旅行は中国人の58%が個人旅行を選び、14年の42%から上昇した。18年4~6月に米国を旅していた中国人の78%は個人旅行客だった。
高度な教育を受け比較的恵まれた若い世代は、それまでの世代よりも自立志向が強まっている。
韓国旅行が制限された後も何百万という中国人が個人で韓国旅行を続け、制限解除後も団体客より戻りが早かった。また、愛国心に訴える作戦も必ずしも機能しないようだ。
華為幹部がカナダで逮捕された後、高級防寒アパレルメーカーのカナダグース・ホールディングスの製品をボイコットするよう広範な呼び掛けがあったが、消費者はなびいていない。

中国の変化を早くから認識していたのがNZだ。中国が脅しかけてくる前から、NZ観光局は中国でのマーケティングを金銭的に余裕のある個人にシフトし始めていた。こうした取り組みが中国政府に抵抗する最善策かもしれない。